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旅先では、普段しないようなことをしたくなる。

ふと立ち寄ったバーのマスターに「旅の思い出になるようなお酒はどうです」と言われた。
少々高いですがという言葉に不安を感じつつ、一杯だけなら、と頷く。

出されたのは、金属の皿に載った琥珀色の塊。
マスターは、好きなもので割ってくれと、金づち、くるみ割り機などをカウンターに並べた。
金づちを手に取り、叩いてみた。が、とんでもなく固い。
力がこもってきて、皿が曲がるのではと思った時、涼しげな音と共に酒が割れた。

店内に立ちこめる濃い匂い。
脳裏に、どこかの街の景色、家の庭、港、そんな景色が浮かんできた。
それは、この酒が見てきた記憶なのだそうだ。
置かれた場所、移動してきた軌跡だという。

帰り際に、原酒だという、私の身長ほどの琥珀色の塊を見せてくれた。
これで私も、酒の記憶の一部になるという。
私は再訪を約束して、店を出たのだった。
ファンタジー
公開:22/03/23 09:38

蒼記みなみ( 沖縄県 )

南の島で、ゲームを作ったりお話しを書くのを仕事にしています。
のんびりゆっくり。

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