蔵出しの朝

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正月、実家に帰るとやることがある。
蔵から一つ、モノを持ちだすという儀式だ。

庭にある小さな蔵に入り、中を見回す。
置かれているのは、壷、本、ハサミ、カセットテープなど。要するに、ガラクタだ。

これは、先祖と過去の私の「人生のやり残し」。
やるべきコトがモノの形を持って、蔵の中に置かれている。
ものを手に取ると、それに関わる、やるべきことが脳裏に浮かぶ。
この中から毎年一つを選ぶのだ。
蔵から持ち出したら基本、戻せない。唯一戻せるのは、私がこの世を去るときだ。

今年取り出すものは、決めてあった。
古いタイプライターだ。
これが何かは、私は知っている。

このタスクはきっと、一生かかる。そんな気がした。
それでもいい。それがいい。
だって、このタスクを蔵に置いたのは、幼い日の私自身なのだから。
私はひとり頷いて、タイプライターを手に蔵を出た。
新しい一年が、また、はじまる──。
ファンタジー
公開:22/01/05 10:10

蒼記みなみ( 沖縄県 )

南の島で、ゲームを作ったりお話しを書くのを仕事にしています。
のんびりゆっくり。

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