その日、世界から消えたもの

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 その日、世界は生まれ変わった。

 高度に発展した近未来。
 人はネットワークに接続し、知識と経験を共有していた。
 ひとつのストレージが用意され、全地球の人のあらゆるデータがそこに集められた。
 それは全ての人に公開され、常に更新を続けた。

 だが、想定よりもはるかに早く、ストレージがいっぱいになってしまった。
 データの増加が、ストレージの追加を上回ったのだ。
 そこで「全ての人は、記憶・経験をひとつ消去すること」となった。

 ある者は、辛いできごとの記憶を消した。
 ある者は、不要となった技術の経験を消した。
 またある者は、憎しみ続けていた人の記憶を消した。

 ストレージの空き容量は確保され、世界は再び動き出した。
 ただ──あるものが消えた。
 今となっては、それが何だったか、覚えている者はいない。
 人々の記憶から消えてしまったから。

 争いが、国境が、消えたのだ。
ファンタジー
公開:21/11/24 09:30

蒼記みなみ( 沖縄県 )

南の島で、ゲームを作ったりお話しを書くのを仕事にしています。
のんびりゆっくり。

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