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人との接触が制限される昨今。とある商店街の小さな店で、ある画期的な道具が発売された。
「それがこの、『遠縁鏡』だ!」
元気な店主が、叩き売りのような口調で通りに向かって声を上げる。いわゆる実演販売である。
「おねえさん、なかなか会えない人で、消息が気になる人はいるかい?」
店主が声をかけると、二十代ほどの女性はえっ、と頷き、
「し、親戚のおばさん。わ、私と彼の、キューピッドになってくれた人。お礼もまだ言っていないのに、こんな事態になってしまって……」
目を潤ませる彼女の肩を、彼氏から夫になった男がそっと抱く。店主は「うんうん、それはお困りだ」
と頷いて、『遠縁鏡』を渡す。
「覗いてごらん。そして、お礼を言って。大丈夫、伝わるから」
そう言われて、遠縁鏡を覗いた彼女は飛び上がる。
「見えた!おばさんだわ!元気にしてた!おばさん!」
遠縁鏡のレンズの向こうでは、おばさんが驚いた顔をしていた。
公開:22/02/02 11:16

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