テクニシャン

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競歩という陸上競技がある。駅伝やマラソンのように走るタイムを競うのではなく、その歩型と、ゴールに至るまでのタイムを競うのである。速さと美しさ。言ってみれば、フィギュアスケートなどと同類だろうか。
その競歩の選手に、とんでもない選手がいた。毎試合ブレない歩型、超人的なタイム。美しくしなやかな体型も相まって、人は彼を「テクニシャン」と呼んだ。
「どうしていつも、良い記録を叩き出せるのですか?その秘訣はっ?」
記者はこぞって聞く。が、選手はいつもはにかむだけで、それがまたとくに女性ファンを惹きつけた。
そんな彼の、テクニシャンの秘密ーー

「ほう、そこはつま先で歩くのですね。そうすると、静かに歩けると。ーーさすがです、師匠!」
テクニシャンはメモを取り、写真を撮った。視線の先には、飼い猫の「師匠」が鼻をつい、と上げて堂々と歩いていた。
その他
公開:22/01/18 10:31

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