10
8
「この時計の修理をお願いしたくて」
その女性は僕へとハート型の懐中時計を差し出す。傷つき、凹んだ蓋を開くと針が止まっていた。
ルーペで時計内部の駆動を確認している僕に彼女が訊ねた。
「直りそうですか?」
「少しお時間を頂ければ何とか」
僕は笑顔で引き受けた。時計の修理もこの時計店の店主である僕の仕事だから。
「じゃあ、お願いします」
彼女は寂しげに微笑むと店を出て行った。
その晩から懐中時計の修理に取りかかった。針が再び動き始めた瞬間、僕の脳裏には時計の持ち主である彼女と一緒に過ごした幸せだった日々の記憶が蘇ってきた。更にこの時計を彼女に贈ろうとしたその日に僕が事故に遭い、それまでの記憶を失っていたことも……。
店に入ってきた彼女に僕は修理した時計を差し出して微笑む。
「ただいま」
彼女の涙が時計に当たって弾けた。
「お帰り」
重ね合う僕らの手の中で時計は再び二人の時を刻み始めたのだった。
その女性は僕へとハート型の懐中時計を差し出す。傷つき、凹んだ蓋を開くと針が止まっていた。
ルーペで時計内部の駆動を確認している僕に彼女が訊ねた。
「直りそうですか?」
「少しお時間を頂ければ何とか」
僕は笑顔で引き受けた。時計の修理もこの時計店の店主である僕の仕事だから。
「じゃあ、お願いします」
彼女は寂しげに微笑むと店を出て行った。
その晩から懐中時計の修理に取りかかった。針が再び動き始めた瞬間、僕の脳裏には時計の持ち主である彼女と一緒に過ごした幸せだった日々の記憶が蘇ってきた。更にこの時計を彼女に贈ろうとしたその日に僕が事故に遭い、それまでの記憶を失っていたことも……。
店に入ってきた彼女に僕は修理した時計を差し出して微笑む。
「ただいま」
彼女の涙が時計に当たって弾けた。
「お帰り」
重ね合う僕らの手の中で時計は再び二人の時を刻み始めたのだった。
恋愛
公開:22/01/11 12:57
大原さやかさん
朗読
月の文学館
198回
月の音色
空想と妄想が趣味です。
ログインするとコメントを投稿できます