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幼い頃から、人と人をつなぐ、赤い糸が見えた。
高校時代のことだ。友人の腰のあたりから、赤い糸がひょろひょろと伸びて、隣にすわっている女子生徒の脇腹あたりにくっつくのが見えた。お互いに、それまでほとんど口もきいたことがなかったはずだが、やがて二人は結婚し、今は二歳になる娘がいると聞いている。
ぼくは今、心から愛している人がいる。会社の同僚で、年は二つ下。美人ではないが、誰にでも笑顔を絶やさない魅力的な女性だ。
夜八時、ぼくは仕事を終えて、デスクから立ち上がった。オフィスに残っているのは、ぼくと彼女の二人。まだ残業が続きそうな彼女を残し、オフィスから立ち去るべきであろうか。
そのとき、彼女の胸あたりから、するすると糸が伸びてくるのが見えた。糸はまっすぐにぼくに向かい、額の真ん中にくっついた。
彼女と糸でつながった。
しかし、どういうわけだろう。その糸は赤ではなく、闇のように黒い色をしていた。
ホラー
公開:21/09/06 21:40
更新:22/08/08 21:38

紫丹積生( 千葉県 )

 冷たい夜、漆黒の空に浮かぶ細い三日月を見上げながら、そっと考えてみる。
 語れば語るほど、伝えたいはずの思いが遠ざかっていくのは、なぜだろうか。
 うわべだけの安直な言葉や表現は、輝き始めた世界を色のない平板な景色に一変させ、萌芽しかけた感動を薄っぺらで陳腐な絵姿に貶めてしまう。
 想いは、伝えるのではなく、感じさせるもの。ありふれたシンプルな言葉で、暗く、苦く、美しい物語を紡いでいきたい。

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