クリスタル

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俺の前に、上品そうな老婆が立った。少しかがんで、写真を見せる。 
「この子の彫刻、お願いできますか?」 
「ちょっと拝見ーー綺麗な猫様ですね。差し支えなければお話を………」 
老婆はゆっくりと話す。それを聞きながら、俺は仕事に取りかかる。 
俺は彫刻家。主におみやげの3Dクリスタルを作っている。今まで色々なものを作ってきて、最近では、注文も受けるようになった。 
「……でさ、おもしろかったのが、お母さんが逃がしたカブトムシを彫ってくれってやつで、その親子、その場で喧嘩しちゃってさ!」 
カラカラと笑う私の前で、彼女が咳き込む。 
「大丈夫か!?先生呼ぶ?」 
「いいの!すぐ治まるからーーその親子、仲直りした?」 
「あ、ああ、えっと……」 
私の彼女。もう何年か、胸を患っている。彼女の咳を聞くたび思ってしまうのだ。 
ああ、彼女の命も、ガラスに閉じ込められたら、と。
その他
公開:21/08/27 15:53

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