シンメトリー6

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僕とヤツは、目を点にした。それだけじゃない、ヤツなんか、今にも大声で泣きわめきそうな顔をしていた。それを我慢しているのか、単に走り出したいのか、足踏みをしている。 
「な、なんで?父さん。なんで僕を殴るの?だってあいつはーーあ」 
ヤツが不自然に黙ったので、僕もヤツの視線を追った。そして、気付いた。父親が違う。いや、それはなんだか、誤解を生む言い方だ。えっと、父親だけ、そっくりじゃない。全然、別の人だ。というのはつまり、お母さんは同じというか瓜二つというわけで、今ここには僕二人とお母さん二人、別の姿形をした父さんがいるということになっている。僕たちは、わけがわからなかった。ヤツの父さんが言った。 
「おまえは、部屋に行ってなさい。ーーそっちの君も」 
こんなときだけ、気の合う二人だ。僕ら二人は、その場から動かなかったんだ、二人共、ね。
その他
公開:21/08/22 10:51

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