ゴーストライター

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「ほらよ。今日もしっかり、仕事しな」 
言いながら先生は、私にイヤホンを投げつけてくる。ーーってえなぁ。 
「なんか言ったか」 
「い、いえ。始めましょう、先生」 
ぱちんっ。万年筆のふたをはずすと、私は静かに、文字をしたためていくーー。 
「ーー出来ました、先生!」 
「おう、遅かったじゃねえか。待ちくたびれたぜ」 
「物語の最後で、主人公が眠ってしまっただけでしょう?」 
「まあ、そうとも言うわなあ。さ、おまえ、すぐにそれを出版社に持ってきな。俺は夢の続きを……すぅ」 
言ってるそばから、寝る先生である。寝る先生に、しっかり布団を被せてから出ていく私。ああ、なんて優秀! 
「なんか言ったか?」 
げ、まだ起きてた! 
「ちっ、なんだよ、文庫本先生って。毎回文庫本に書かれていること、写しとるだけじゃん」  
でもそれが、文庫本先生だった。文庫本先生は、幽霊なのだった。
その他
公開:21/08/09 18:36

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