真夜中の恐怖

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一対の夫婦茶碗。江戸時代後期の作だそうだ。
手に取って見ると、大きい方の茶碗に、たくさんの細かい傷がついているのがわかった。
「付喪神じゃないかと思ってる」古道具屋の主人が言った。「しっかり木箱に入れて帰るんだが、朝、店に来ると、二つとも畳の上に転がっているんだ」
付喪神というのは、百年以上の長い年月を経て、道具などに精霊が宿ったものだ。
わたしは、思うところがあり、主人に頼んで、その夫婦茶碗を二つとも家に持ち帰った。
真夜中、夫婦茶碗を置いた部屋から、がちゃんという音が聞こえた。わたしが部屋をそっとのぞくと、二つの茶碗に、そろって細い手足が生えていた。
大きい茶碗が逃げようとするところ、小さい茶碗が相手の縁を持ってひっくり返し、足蹴にしていた。
やはり、思った通りだ。付喪神の夫婦喧嘩だった。
ホラー
公開:21/09/27 18:58
更新:22/08/08 21:46

紫丹積生( 千葉県 )

 冷たい夜、漆黒の空に浮かぶ細い三日月を見上げながら、そっと考えてみる。
 語れば語るほど、伝えたいはずの思いが遠ざかっていくのは、なぜだろうか。
 うわべだけの安直な言葉や表現は、輝き始めた世界を色のない平板な景色に一変させ、萌芽しかけた感動を薄っぺらで陳腐な絵姿に貶めてしまう。
 想いは、伝えるのではなく、感じさせるもの。ありふれたシンプルな言葉で、暗く、苦く、美しい物語を紡いでいきたい。

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