秋風のシルフ

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火、水、風、大地をそれぞれ司る妖精を、四大精霊というそうだ。
土曜日の朝。まっすぐにのびた並木道。わたしは、軽やかに自転車のペダルを踏んでいた。県立図書館に、予約していた新作ミステリーを受け取りに行くのだ。
雲一つない青空。秋の訪れを思わせる冷気を含んだ風。思わず鼻歌が混じる。
図書館の古びた門に視線を向けると、門の上にほっそりとした女性が立っているのが見えた。後ろ姿だったが、からだは半分透明で、長い髪、薄いピンク色のドレスが風になびいていた。
不思議と恐怖感はなかった。四大精霊のひとつ、風の妖精シルフ。この前、読んだ本に載っていた。
涼やかな風に誘われるように、彼女が振り向いた。ぽっかりと開いた眼窩、剥き出しの歯。顔は白骨化していた。
わたしは、視線を正面にもどし、図書館の門をくぐる。妖精が清楚な美女じゃなきゃいけないなんて、誰が決めたの?
自転車を降りて、小走りに図書館の中に向かった。
ファンタジー
公開:21/09/15 21:06
更新:22/08/08 21:41

紫丹積生( 千葉県 )

 冷たい夜、漆黒の空に浮かぶ細い三日月を見上げながら、そっと考えてみる。
 語れば語るほど、伝えたいはずの思いが遠ざかっていくのは、なぜだろうか。
 うわべだけの安直な言葉や表現は、輝き始めた世界を色のない平板な景色に一変させ、萌芽しかけた感動を薄っぺらで陳腐な絵姿に貶めてしまう。
 想いは、伝えるのではなく、感じさせるもの。ありふれたシンプルな言葉で、暗く、苦く、美しい物語を紡いでいきたい。

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