ノラ海と青年

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大半が砂漠の小国。
私はこの地で生まれ育ちました。
ある日、男が引っ越してきたのです。
家を訪ねると、気さくに招き入れてくれました。

彼の話は興味深く、私は長い間耳を傾けていました。
話が一段落し、部屋の隅にある大きな水槽が目に入りました。
初めて見る魚に見とれていると、彼はまた話し始めました。

各地を動き回る海がある。
彼は運良く出会うことができたのだそうです。
しばらくの滞在ののち海は去り、小さな水たまりが残されました。
それは仔猫のように、後を着いてきたといいます。

放っておけず、連れ帰ったそうです。
水槽に入れた海はすくすくと育ちましたが、問題は置き場所でした。

そこで移住を決めたといいます。
ここなら、大きく育った海が放たれても、迷惑にはならないだろうと。

以来、私は毎日、彼の家を訪ね、仔海の様子を見るようになりました。
この砂漠に、海が生まれるその日まで。
ファンタジー
公開:21/04/29 11:48

蒼記みなみ( 沖縄県 )

南の島で、ゲームを作ったりお話しを書くのを仕事にしています。
のんびりゆっくり。

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