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女が出てくるまでの間、俺はあいつの事を思い出していた。 
あいつとの思い出は、数知れない。
あいつと俺は、共に愛し合っていた。同性愛者だ。互いの家を行き来したこともある。いやそれどころか、互いに合鍵を持っていて、相手不在の家に入ったこともある。俺があいつの家で待っていたのを発見したあいつ。困り顔が、可愛かったなぁ。ーーそうだよなあ。実際困ってたんだよなあ。あのときから。 
もう、いつだったか、あいつが別れてくれと言ってきた。こちらはもちろん、ノーだ。そしたら、「じゃあ」って。いまから半年後、人を殺してくれ、って。 
ずいぶん穏やかじゃないな。俺が言うと、まあな、すまん、って。俺はやっぱり、彼女と生きたいんだ。生きたかったんだ。 
 夜、あいつは死んだ。病気だったらしい。もう治らない病気。あいつは俺に、手紙を残してくれた。そこにはこう、書かれていた。   
ーー彼女と、逝きたいんだーー
その他
公開:21/07/31 07:08

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