蜃気楼の君

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なんてことをしてしまったの。私はバカだ。とんだ大馬鹿野郎だわ。彼に話しかけてしまうなんて!いいえ、話してはいない。だけど、存在のアピールも、この世界では許されないんだ。確かめたいことが、あったのに。
そう、きっとあの人は、未来の私。生まれ変わって、小説家になったんだ。なれたんだ。私の代わりに、小説家になってくれたんだ。彼に話しかけた私は、今、蜃気楼と混ざりかけている。蜃気楼にからめとられ、砂埃にからめとられ、アリ地獄へと、飲み込まれていく。 
 ああ、いつだったか。荒れ果てた地で、踊っている人を見た。最期の踊りだと、あの人は言っていたっけ。最後の拍手を、彼に送ろう。
その他
公開:21/07/22 13:28

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