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「ぐずぐず泣かんの。おにぎり食べて次頑張り」私が×だらけのテストを持ち帰るたび、祖母は飛梅ゆかりだという梅干し入りおにぎりを握ってくれた。
飛梅。道真公が大宰府に左遷されたとき、主の元へ飛んでいったという梅。家の庭の片隅に植えられた梅の木は、その飛梅の子孫の梅だと祖母は自慢していた。
だが、その祖母はもういない。祖母が最後に作った梅干しは、冷蔵庫にしまい込んでいた。
だが今日、私はその梅干しを持ち出した。
「あの、これどうでしょうか」
「どれどれ。自家製の梅干しだね」
私は梅干しの種を取り出し、ペンチでかち割り仁を取り出した。
「萎びているが取り出せるかもしれないな」
細かく刻んだ仁が入ったシリンダーを機械に入れる。後は待つだけ。
やがて、凝視するパソコン画面に数値が埋めていく。
「おめでとう。遺伝子情報採取に成功だ」
教授の拍手と共に、賢うなったなと懐かしい声がした。
その他
公開:20/12/14 22:13

大西洋子( 滋賀 )

ショートショート、童話中心に活動しています。

ショートショートガーデン空想競技2020入賞


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note @yokomare

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