縁(えにし)の恋文

6
8

祖父の遺品を整理していると一通の手紙が出てきた。そこには軍服姿の凛々しい青年の写真と和歌をしたためた便箋が一枚入っていた。

みをつくし恋ふるしるしにここまでもめぐり逢ひける縁は深しな

国語教師の父に歌の意味を訊くと教えてくれた。
「身を尽くして恋い慕う甲斐あってここでめぐり逢えたのも、あなたとの縁が深いからなのだという意味だよ。『源氏物語』で主人公の光源氏が愛しい姫を思って贈った歌だ」
まだ祖母と知り合う前、祖父が出征するにあたって恋人へむけて書いたものの、送らなかった手紙だった。宛先は広島市となっている。
「戦地から命からがら帰ってきて八方手を尽くして探したらしいが、その人の実家が爆心地からそう遠くなくて……結局は行方知れずだったようだよ」
その夜、私は縁側で不思議な人影を見た。年若い祖父と着物姿の美しい女性が肩を寄せ合い、月を見上げていた。
私は仏壇の上の祖母の写真をそっと伏せた。
恋愛
公開:20/10/29 13:00
更新:20/12/23 15:27
コンテスト

蟲乃森みどり( 太陽から三個目の石 )



空想と妄想が趣味です。

 

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容