日々是縁日

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私達夫婦に遠慮して実家で独りで暮らす母を訪ねた。そろそろ一緒に暮らさないと切り出すと母は静かに笑って言う。
「ありがとうね。でも大丈夫。全然寂しくないの。毎日お客さんが来て忙しいくらい」
「お客さん?」
母を訪ねて来る人がいることに驚いた。
母が居間から見える縁側へと顔を向けて言う。
「あ、見えたみたい」
いつのまにか春の柔らかな陽射しを受ける縁側に着物姿に髷を結った侍が座っていた。
「誰?」
「ご先祖様」
いそいそとお茶の用意をして、母がその隣に腰を下ろした。少女のように頬を染めて。
黙ってお茶を飲んでいるだけなのに二人が逢瀬を楽しんでいる気持ちが伝わってきた。
縁側はきっとその字の如く縁ある人との再会を果たせる現世とあの世を繋ぐ彼岸なのだ。

実家に滞在した数日の間、午後になると母と縁のあった故人が時空を超えて現れ、縁側で母とお茶会を楽しんだ。
午後の陽射しの中で母の笑顔は輝いていた。
ファンタジー
公開:20/10/10 22:00
更新:20/12/30 12:11
コンテスト

蟲乃森みどり( 太陽から三個目の石 )



空想と妄想が趣味です。

 

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