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街を一望できる丘の上に置かれたその一台の自動販売機では「夕暮れ缶」という不思議な缶詰が売られている。
夕暮れにも色々な味わいがある。夕陽の色はもちろん、空の色や雲の形から風の香りに至るまで、一日として同じ夕暮れはない。その夕暮れを缶に封じ込めたものが「夕暮れ缶」だ。
自販機にコインを投じると窓に並ぶ見本の缶を順に眺める。サンセット・サイダー、夕暮レープ、たそがレモン、夕陽オレンジ……。
頭上の灰色の曇り空を見上げて考える。今日の気分は夕陽オレンジだ。ボタンを押すと出てきた缶を手に取って傍らのベンチに座り、プルタブを引く。
プシュッと空気の漏れる音が響くと、曇り空が徐々に紅に染まり、彼方に沈みゆく夕陽が街を蜜柑色の光で包んだ。
私は夕陽が沈んでいくのを眺めていた。ただそれだけで心が安らかになり、優しい気持ちになれた。
気持ちを落ち着けたいとき、私はいつもこの丘の上でひとり、夕暮れ缶を味わう。
ファンタジー
公開:20/11/25 17:00
夕暮れ自動販売機

蟲乃森みどり( 太陽から三個目の石 )



空想と妄想が趣味です。
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