割り算トンカチ

4
4

うちは、江戸時代から続く大工だ。
家には多種多様な大工道具が転がっている。
道具は見ていてわくわくする。
機能美に満ちた形状。使うほどに手になじんでいく過程もたまらない。

その中に不思議なものがあった。
やたら豪華な装飾が施されたトンカチだ。
クギを打つ道具だが、その用途には使えなかった。
叩くたびに、クギが複数に増えてしまうのだ。

試しにパンを叩いてみたら、半分の大きさのパンが2個になった。
どうやら、このトンカチは割り算のようにモノを「割る」ことができるらしい。

──じゃあこれで、自分を叩いたらどうなる?

少し怖かったが、意を決し、トンカチで自分の額を軽く叩いてみた。
何も起きない。
強めに叩いても、叩く場所を変えても同じだった。
かなり強めに叩いたら、軽くめまいがして、気づいた。

どうやったって、人は、心は、「割り切れない」ものなのだ、と。
ファンタジー
公開:20/11/19 11:43

蒼記みなみ( 沖縄県 )

南の島で、ゲームを作ったりお話しを書くのを仕事にしています。
のんびりゆっくり。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容