ありがちな地獄

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 一人の男が地下通路を歩いている。突き当たりの階段から外へ出れば、彼の務めている会社がある。今日も、何もかもうまくいかないだろう。彼は下を向いて黙々と歩く。
 彼は、今日はずいぶん長いこと歩いている気がした。顔を少し上げて前を見るが、通路がいつまでも続いている。さらに歩き続けたが、地下通路は終わらない。彼は腕時計を見た。大体いつもこのあたりを歩いている時刻で止まっていた。
 どれくらい歩いただろう。何時間も経ったのだろうか。あるいは何百年も経ったのかもしれない。それでも歩くしかなかった。会社に行かないなどありえないのだ。
 彼の様子を後ろから伺っている者があった。頭から二本の角を生やし、スーツを着た鬼だった。鬼は携帯電話に向かって話す。
「新しく入ってきた人の様子ですか。順調みたいですよ」
鬼は電話を切ってため息をついた。視線の先にいる彼は自分が自殺したことにすら気がついていないだろう。
ホラー
公開:20/08/23 10:52

ちる

小説を書くのが好きなので、登録してみました。
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