四畳半水泳

部屋のドアを閉めると服を脱ぎ、水着に着替え、ゴーグルをはめる。
参加選手に配布される特殊な薬品「ミズタプ」を一滴、畳の上に垂らす。途端に畳がタプンと膨らみ、青く澄んだ水に変わった。やがて四方の壁も泡になって溶けると、四畳半の部屋は果てしない海原へと変わる。僕の周囲には水着姿の選手達がスタートの合図を待って浮いていた。
青空の彼方から響いてくるホイッスルを合図に僕達は一斉に泳ぎ出す。
途中、波にさらわれたり、足がつったりでリタイアする者が続出。ゴールが見えた時には僕も含めた３選手のデッドヒートとなった。ゴール直前になって水底から巨大な鮫が襲ってきた。２選手を蹴散らし、鮫は大口を開けながら僕へと迫ってくる。もうダメだと観念した瞬間、鮫が泡になって弾け、大家さんの顔が現れた。
気がつくと、僕は水浸しになった四畳半の部屋に寝転び、大家さんから叱られていた。
「下の階が水浸しよ！ どういうつもり！」