もしもの世界

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家族制度が撤廃されたのは、機械が全ての産業を肩代わりし、人類唯一の仕事が種を絶やさないこと、になったあたりというからかなり昔だ。
生まれた子供は全員、保育施設でナニーロボットに分け隔てなく育てられ、大人になったら『人との関係性を育む為』社会活動の真似事をする。
私はお花屋さんを選んだ。夜の間に環境ロボットがきれいに整えた店を、朝から夕まで番をする。
「きれいなお花ね」
暇つぶしに花束を作っていたら、老婦人に声をかけられた。
「今朝届いたばかりなんですよ」
多分、と心に付け加えて、短く切りすぎたバラを一輪、彼女の帽子に飾ってみる。
「差し上げます」
あらあらまぁ、いいのかしら。窓硝子に映る姿に目を細めて喜ぶ彼女が、もしも祖母なら。
郵便の人が、もしもお兄さんなら、
八百屋のおばさんが、もしもお母さんなら。
誰が家族か解らないから、みんながみんなを大事にする。

もしもの世界は、とても優しい。
SF
公開:20/05/03 07:38

矢口慧( 関西 )

幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。

プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
プチコン七夕に「烏合の橋」が選出。
名作絵画SSコンテストに「カウンセラー」が文春編集部賞選出。
働きたい会社 ショートショートコンテストに「オフィスカフェ」が選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。

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