『涙石』

3
6

この水晶の中は一人の少女の悲しみの涙で満ちている。
触れると、中の涙が揺れ動くのを感じる。もう、水晶はここまで薄くなった。

この宝石には曰くがある。
東の国の貧しい村の少女。彼女は流した涙が宝石になるという体質だった。
その少女は、あるとき西から来た悪い商人に見つかってしまう。
娘を譲ろうとしない両親に業を煮やした商人は娘を攫った。
少女は毎日商人に鞭で打たれた。背中の皮膚が爆ぜようとも容赦なく。商人にとって必要なのは、少女の涙とそれを生む両の瞳だけだったから。
しかし、あまりに行き過ぎてしまったのか、少女はある日息を引き取る。その時に流れた涙がこの水晶だというのだ。
「あんた、もの書きさんだろ。だったらこの石に幸せな話をしてやんな」
これは宝石商の言葉。

以来、私は石に物語を語り続けている。少女に与えられなかった幸せの物語を。私の千夜一夜物語。
石は溶け始めている。内側から少しづつ。
ファンタジー
公開:20/04/18 13:26
月の音色 月の文学館 満ちる

ひょろ( twitterが主。あとは「月の音色」の月の文学館コーナー )

短いものしか書けない系ものかき趣味人
江坂遊先生の「短い夜の出来事」(講談社文庫)に入っているハイパーショートショートに触発されて、短い小説を書いている。
原稿用紙5枚→3枚→半分(200字)→140字(twitter小説)と着々と縮み中w。
月の音色リスナー

目にも止まらぬ遅筆を見よ!

twitterアカウント:hyoro4779

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容