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気がつくとダムにハマっていた。会社で仕事をしていても、家で妻や子供と話していても、常に心は上の空。頭にあるのはダムのことだけだった。自然の力を制御する人間の技術力の勝利という感動に震え、我々のスケールを遥かに超えた貯め池から大量の水が排出されていく様をぼんやり眺めているだけで心が安らぎに満ちる。施設の食堂で食べるダムカレーも楽しみのひとつだ。そしてそのダムを訪れたことを証明するダムカード。このカードを全て揃えるまではダム巡りの旅はやめられない。

ある朝、目が覚めると私はダムになっていた。緑深い谷間に流れる河をせき止めるどっしり堅牢なダムだ。
轟音を上げて放水を続ける私の下に施設の職員がやってきて叫ぶ。
「奥さんからお手紙が届いていますよ!」
ダムの私は手がないので手紙を開封できない。代わりに封筒を開けてもらった。離婚届だった。
どうやら妻の心のダムが怒りで満ち溢れ、ついに決壊したらしい。
ファンタジー
公開:20/04/09 06:00
満ちる ダム

蟲乃森みどり( 太陽から三個目の石 )



空想と妄想が趣味です。
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