完全変態家族

我が家はみんな完全変態だ。といってもあの変態ではない。実は私達はメタモルフォ星から地球に移住した異星人一家。毎朝目覚める度に何かしらの虫に姿が変わり、完全変態を遂げている。それぞれが会社や学校に行く前には何とか地球社会に適応したヒトの形態に戻るのだが、日によっては体の一部が虫のままの場合もある。ダンゴムシの殻が背に残ったままだと坂を転げ落ちてしまうし、カメムシのままだと満員電車では体臭によって死者が出かねない。ただトンボの姿のときは通勤通学が楽だし、百足のときは千手観音のように無数の手を合掌する私の秘儀「百足謝罪」によって勤め先の窮地を何度も救った。
そして、最悪なときは私が蝶の姿で妻がカマキリのときだ。夫婦喧嘩になると妻の鋭い鎌に切り裂かれた私の鱗粉と体液がまだローンの残る住宅の室内に雨となって降り注ぐことになる。その際、たいてい娘はバッタになって家から跳んで逃げて行ってしまうのだった。