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その女は閉店間際の雨の降る夜にやってきた。
「この時計を修理して頂けますか?」
女は懐中時計を差し出した。その銀の蓋には神話上の怪物、蛇の髪を持つメドゥーサが彫られている。見た者を石に変えるというその目には宝石が嵌め込まれていた。蓋を開けると時計は止まっている。分解して調べてみた。
「あの時を境に止まってしまったの。あなたにしか直せないわ……ねぇ、時計屋さん?」
「あの時?」
時計から顔を上げると、女は跡形もなく消えていた。
作業台に視線を戻すと懐中時計は確かにあった。夢ではない。
先ほど分解したはずだが元通りになっている。いつの間にか針も動き出していた。再び時を刻み始めた時計の動作を確認するために耳に当てる。駆動音は女の呟きに変わった。
「これはあなたが奪った私の命の時間よ」
その瞬間、私の心臓は石と化した。薄れゆく意識の中で私がかつて喧嘩の末に殺めた女の高笑いが聞こえたような気がした。
「この時計を修理して頂けますか?」
女は懐中時計を差し出した。その銀の蓋には神話上の怪物、蛇の髪を持つメドゥーサが彫られている。見た者を石に変えるというその目には宝石が嵌め込まれていた。蓋を開けると時計は止まっている。分解して調べてみた。
「あの時を境に止まってしまったの。あなたにしか直せないわ……ねぇ、時計屋さん?」
「あの時?」
時計から顔を上げると、女は跡形もなく消えていた。
作業台に視線を戻すと懐中時計は確かにあった。夢ではない。
先ほど分解したはずだが元通りになっている。いつの間にか針も動き出していた。再び時を刻み始めた時計の動作を確認するために耳に当てる。駆動音は女の呟きに変わった。
「これはあなたが奪った私の命の時間よ」
その瞬間、私の心臓は石と化した。薄れゆく意識の中で私がかつて喧嘩の末に殺めた女の高笑いが聞こえたような気がした。
ホラー
公開:20/03/15 07:00
時計のつぶやき
メドゥーサ
懐中時計
女
時計店
空想と妄想が趣味です。
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