美に寄り添う人

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美術館に展示されているある絵画が心に焼き付いて離れないという人は多い。ではその作品にどのような額装が施されていたかを記憶している人はどれくらいいるだろう。
男の職業は絵画を装飾しながらも決して出しゃばらず、そっと美に寄り添うことを信条とする額縁職人だった。風景であれ肖像であれ、絵画とは画家がカンヴァスに封じ込めた人生の節目の情景だと男は考える。良い額縁を作るためには画家の人生の節目に立ち会い、その作品世界の中で共に生きる覚悟が必要だとも。
男の妻は画家だった。妻が絵を描き、彼がそれに合った額で飾る。人生の苦楽を共にしながら二人は芸術作品を世に送り出した。その途上で妻が病でこの世を去った。男は妻が遺した描きかけの自画像に合う額縁を完成させた後で行方知れずとなった。

その描きかけの最後の自画像は現在ある美術館に所蔵され、女の隣には額縁職人の夫が寄り添い、互いに永遠の接吻を交わし合っている。
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公開:19/12/14 10:00
更新:19/12/14 08:01
節目 絵画 額縁

蟲乃森みどり( 太陽から三個目の石 )



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