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実家には大きな鏡がある。母が生前に鏡の前で化粧をしながら語っていたことを思い出す。その鏡はかなり古いものなのだと。
仕事も恋愛もうまくいかず、都会の暮らしに疲れた私はしばらく実家に帰ることにした。
母の思い出に浸りながら鏡の前に立って自分の顔を眺める。目尻には小皺が目立ち、髪をとかすと白髪が光った。思わずため息が出る。不意に鏡が石を投げ込んだ水面のように歪み、子供の頃の私と母を映し出した。私はお気に入りの人形を手に母と微笑み合っていた。すると鏡は歪み、今度は学生服姿で号泣する私を慰める母が映る。そして亡くなる少し前の母が現れた。母も自らの容姿の衰えにため息をつくかと思いきや満面の笑みだった。そして私に言った。
「あんたのことをちゃんと見てくれてる人は必ずいる。だから笑顔でね」
鏡の中で母が自らの涙を拭うと私の目尻からも涙が消えた。
「ありがとう」
私は皺を気にせず母のように思いきり笑った。
ファンタジー
公開:19/12/13 11:00
更新:19/12/13 12:38
節目 人生

蟲乃森みどり( 太陽から三個目の石 )



空想と妄想が趣味です。

 

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