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蒼い丘の上に立つ一本の桜の下で僕達は出逢った。風に舞う桜吹雪から現れた淡い桜色の髪の女性に僕は一瞬で心を奪われた。その瞬間から僕達の人生が始まった。決して裕福とは言えない暮らし。でも、笑顔があった。笑う度に彼女の心から花が溢れ、僕達の部屋を麗しい色と香りで満たした。人生の節目に訪れる辛く悲しい日々も、彼女の心に咲く花の輝きと芳香が僕を慰め、乗り越える力をくれた。どんなに寒い冬が訪れても彼女の心に咲く花が枯れることはなかった。
やがて桜の木が病に侵されると、彼女もまた病床に伏した。あれほど鮮やかに咲いていた心の花も色艶が失われていた。
「あの丘へ連れて行って」
僕は丘の上に立つ桜の木へと彼女を連れて行った。
その木の下で、僕達は涙の口づけをかわした。その瞬間、彼女が桜の花びらになって風に散っていった。
僕の腕の中にはふたりの愛の結晶である一人娘が残された。その小さな胸には命の花が揺れていた。
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公開:19/11/24 15:28
更新:19/11/24 23:04
節目 人生

蟲乃森みどり( 太陽から三個目の石 )



空想と妄想が趣味です。

 

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