思い出時計

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思い出時計を修理してくれるというその時計店を私は訪れた。
店主は優しそうな初老の紳士で、来店した私の左胸にそっと手をかざすと、半透明に輝く丸い時計を浮かび上がらせた。店主は眼鏡を中指で上げると私に静かに言う。
「思い出時計には時を刻む長針と短針の他に、もう一本、あなたの人生の節目を刻む針があるのです。何か大きな転機があなたの人生に訪れたとき、この針が前へと進みます」
店主は労るように私の節目の針に触れた。
私の目から頬に涙が伝った。愛する人を失って以来、私の節目の針は歪み、止まったままだった。
店主が触れると私の曲がっていた節目の針はぴんとまっすぐに戻り、眩しく輝きだした。
私は礼を言って店を出た。雨は上がり、澄んだ青空には虹が架かっていた。私が微笑むと虹の彼方であの人も微笑み返した。その瞬間、私の胸の中で節目の針が大きく前へ進む音を響かせた。
新しい季節の始まりはもうそこまで来ていた。
ファンタジー
公開:19/11/21 08:45
更新:19/11/21 12:26
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蟲乃森みどり( 太陽から三個目の石 )



空想と妄想が趣味です。
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