片翼の堕天使

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僕には翼が見える。
この世界に存在する者は皆、命の翼を持っている。真っ白な翼もあれば闇のように真っ黒なものも、傷ついて飛べそうにないものだってある。
あるとき、僕は一人の少女に出逢った。その子の背には翼がなかった。
その子は自らの翼をもぎ取って病に伏せる妹に全て与えていたんだ。彼女の背中の傷口からは僕にしか見えない赤い血が流れ続けていた。その痛みだって相当なはずなのに、彼女は病室で妹を献身的に看病する。その枕元には黒い翼の生えた死神が嗤っているというのに。彼女には見えないのだ。
「彼女は妹に翼を与えた。もう十分だろ? さっさと消えろ」
僕は光の剣を握ると死神に突きつけた。
「ふん。堕天使め! まあいい、この死に損ないどもはお前にくれてやる!」
そう吐き捨てると死神は消えた。
僕は自らの片方の翼をもぎ取ると少女の背中に付けた。彼女が振り返る。
僕は素早く姿を消した。彼女と妹の幸せを願って。
ファンタジー
公開:20/01/18 07:00
更新:20/01/18 01:02
堕天使 死神

蟲乃森みどり( 太陽から三個目の石 )



空想と妄想が趣味です。

 

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