海を抱く日

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得意げに広げられた
小さな掌から
そっと受け取って
太陽にかざして眺めた
白い貝殻

かつて命だったもののかけら

私も息子も、そしてあの人も
すべては海からはじまった

すべての命が生まれた場所
この場所を訪れる勇気が出るまで
ずいぶんかかったけれど
今日はあの人の生まれた日
そして
生と死の出逢う波打ち際で
家族がようやく集う
私にとっての節目の日

ほら、これが私達の命の結晶
遅れてごめん

海はただ碧く黙して
はるか太古の記憶と
あの人を抱きながら
寄せては返す波で
はしゃぎ 跳び回る
小さなひざ小僧を濡らす

あの子はまだ
海のやさしさと美しさしか
知らない

海が命を与え、育むものでありながら
ときに命を奪うものであることを
知らない

砂の上に座って
子宮の内にある原始の海を抱いて
潮騒を聴く

あの人の遺してくれた
小さくもまぶしい
命の躍動を見つめながら
その他
公開:19/12/26 06:00
更新:19/12/26 05:53
節目 海岸

蟲乃森みどり( 太陽から三個目の石 )



空想と妄想が趣味です。

 

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