俺の好きな煙

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俺は自由な猫だ。人間は自分達の都合で俺達を勝手に捨てておきながら野良なんて呼んで区別する。飼い猫はそりゃあ寝る場所と食べ物の心配をしなくていい分楽かもしれない。でも名前や首輪をつけられるなんて俺の性分には合わない。
今日も日向でたっぷり昼寝をして、夕日が沈む頃に目を覚ました。軒を連ねる家々の台所から白い煙と共に魚や肉の焼ける旨そうな匂いが漂ってくる。その白い煙を目にして匂いを嗅ぐ度に俺の胸は高鳴り、口の中は唾液で満ちる。さて、今晩はどこでご相伴に与ろうか?
そしてもうひとつ、俺の好きな煙がある。それは線香の煙。去年の夏まで俺を可愛がってくれた婆ちゃんの香りだ。今はその娘と孫の住む家へ俺は足を向けた。仏壇の写真の中で微笑む婆ちゃんに見守られ、線香の香りに包まれながら座布団の上で丸くなって眠るために。やんちゃ盛りの孫にしっぽを引っ張られさえしなければ、今夜こそ夢の中で婆ちゃんに逢えるだろうか?
その他
公開:19/12/19 09:00
猫と煙 月の文学館 月の音色 音泉

蟲乃森みどり( 太陽から三個目の石 )



空想と妄想が趣味です。

 

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