ささやかな愛の言葉

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節目と呼べるほどの大きな転機もなく、何もかもがうまくいかない人生だった。未熟児として生まれ、小学生のときにはお漏らしをして馬鹿にされ、中学では容姿の悪さと暗い性格のために初恋の子には見向きもされなかった。高校ではいじめに遭い、大学受験も失敗した。社会人になると不況で就職先はなく、何とか潜り込んだ会社も倒産した。やがてブラック企業で心身を擦り減らしている最中に父母が他界した。結婚する相手も、友達すらいない私は独りになった。そして今度は私自身が病に倒れた。
ある日、病院の庭の灌木に青虫を見つけて育ててみた。葉をバリバリと食べ、大量の糞をする姿を見ていると何だか元気が出た。
春が来て、蛹から羽化したのは蝶ではなく天使だった。天使は私に微笑むと言った。
「ありがとう」
私も笑顔になって「こちらこそ、ありがとう」と言葉を返した。
人生最後の日、木漏れ日の下で、私は天使とささやかな愛の言葉を交わした。
ファンタジー
公開:19/11/08 12:00
節目 人生 感謝 ありがとう 天使 幼虫

蟲乃森みどり( 太陽から三個目の石 )



空想と妄想が趣味です。
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