絵の中の退屈

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典子は小さな会社の事務員。平凡で退屈な毎日の憂さを晴らすために美術鑑賞を趣味にしていた。美術館を訪れるとマネの傑作《フォリー・ベルジェールのバー》に心を奪われた。絵の中央で虚ろな瞳で佇む少女、シュゾンに自らの境遇を重ねた。不意にシュゾンが典子に話しかけてきた。
「あなた、毎日に退屈しているんじゃない?」
典子は驚きながらも頷く。
「私もずっとこの姿勢でいるのに疲れてきたの。どう? ちょっと試しに入れ替わってみない?」
パリの煌びやかな夜のバー、まして絵の世界に入り込めるなんて面白そうと典子は同意した。
かくして典子は絵の中へ、シュゾンは現代の日本で生きることに。シュゾンはすぐに転職し、自らの望む仕事や恋に突き進み、新たな人生を謳歌した。一方の典子は最初こそ新鮮だった絵の中も、ずっと同じ姿勢のまま売り子を続け、売春目的の客が多いことに辟易した。しかも事務員と違い、それは永遠に続くのだった。
ファンタジー
公開:19/11/04 10:59
更新:19/11/04 11:11
マネ フォリー ベルジェール バー 美術館 コートールド

蟲乃森みどり( 太陽から三個目の石 )



空想と妄想が趣味です。

 

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