泣くゴッホ

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美術展でゴッホの自画像を見た。心打たれてその自画像の絵葉書を買って帰った。翌朝、起きてみると机の上が濡れていた。水の出所は絵葉書の中のゴッホの青い瞳だった。僕の芸術を誰も理解してくれないと彼は言って涙を流した。私は不憫に思えて涙を拭いてやり励ました。今やあなたの絵は世界中で愛されているから心配いらないよと。
皆は僕の絵を愛しているんじゃない、僕の悲劇的な人生に同情しているだけだとゴッホは首を左右に振る。
まあ、それも含めての芸術じゃないと慰めると彼はまた泣いた。
面倒臭い男が苦手な私はアパートの屋上でその絵葉書を焼いた。その煙は曇り空に吸い込まれていった。途端に雨が降り出して私の肩を濡らした。部屋に帰ってシャワーを浴びると、肩に痒みを覚えた。見ると、そこには赤い肉が盛り上がり、ゴッホの顔ができていた。
こうして私の肩に寄生したゴッホは相変わらず泣き続け、汗染みのように服を濡らし続けている。
ホラー
公開:19/11/02 10:06
更新:19/11/04 11:42
ゴッホ 絵画 絵葉書 ポストカード 美術展 自画像 ゴッホ展 美術館

蟲乃森みどり( 太陽から三番目の石 )

ある朝、目が覚めると蟲乃森みどりの人生はショートショートに変わっていた。目に映る景色、耳に聞こえる音、頬に触れる風の感触、彼女をとりまく世界のすべてが物語の息吹に満ちていた。みどりは自身の肉体と精神が死と破壊に満ちていると同時に美しく謎めいた物語によって形作られていることを知ってしまったのだ。アンデルセンの言うとおり、すべての人の一生は神の手によるお伽噺に過ぎないのかもしれない。つまり、ショートショートそのものであるみどりがショートショートを書くということはショートショート内ショートショートという入れ子構造になるわけだ。
このプロフィールはショートショートです。実在の人物とは一切関係ありません。

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