燃やされなかった国宝

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ある日、古寺の住職の元に境内にある金色堂に放火するという脅迫の手紙が届いた。金色堂は国宝に指定されていた。そこで住職は一計を案じ、新聞やテレビ等のマスメディアを使って脅迫を大々的に訴えた。それに反応した人々が「焼失する前に見ておこう」と金色堂に詰めかけた。おかげで参拝客により寺は大盛況。拝観料が儲かるばかりか、常に人が金色堂の周りに群がっているために放火犯も手が出せない。さらに住職は業者に頼んで金色堂に不燃性の塗装を施した。やがて脅迫犯も捕まった。それが世間に知れ渡り、焼失の危機が去ると参拝客が激減した。
ある夜、住職は金槌で金色堂を適度に破壊した。それを何者かの犯行として世間に訴えるとまた参拝客が詰めかけた。
住職は首を捻る。
「無くなるかもしれないと思うと途端に有り難がる。人とは妙なものだな」
それが無常観です。と金色堂の中の仏像が囁いたが、欲にまみれた住職の耳には届くはずもなかった。
その他
公開:19/11/01 12:35
更新:19/11/01 12:51
放火 火災 焼失 国宝 文化遺産 仏像

蟲乃森みどり( 太陽から三個目の石 )

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