未婚届

未婚により孤独死する人々が増加の一途を辿っているため、政府は生涯独身を貫く決意をした者には未婚届を提出することを義務づけた。この届を提出すると一世帯ごとに一体の精巧なアンドロイドが支給され、未婚者の家事やその他諸々の生活をサポートする。病気の看護から介護、果ては埋葬に至るまでアンドロイドは不満を言うことなく迅速かつ丁寧に任務を遂行するようプログラムされている。
やがて既婚者も続々と離婚して未婚届を提出しようと役所に詰めかけることとなった。愛という時の経過と共に減少する目には見えない移り気な感情を頼みに生涯を送ることがあまりにリスキーであることに誰もが気づいてしまったのである。病の看護や老齢介護という精神と体力を擦り減らす重労働をパートナーに任せることは忍びないという配慮もあった。介護疲れによる虐待や殺人の予防にもなる。
人々は皮肉にもアンドロイドによって初めて無償の愛を知ったのであった。