『節目様』

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洞窟の最奥。設えられた祭壇に向かい婆様が呪文を唱える。節目様の招きの儀だ。
傍らには、磔の息子。14歳になった彼は、今日子供を失い大人を授けられる。知識や技能はそのままに意識が大人へ置き換わる。
泣きわめく息子。怖いのだ。変わるのが。失うのが。子供という自由を。
祭壇の奥の闇からぬるりと節目様が現れる。滴る音。腐臭。
節目様の細い蔦のような触手が伸び、息子の頭蓋を貫く。
何かが抜き取られ、何かが注がれていく。程なくして息子の目つきが変わった。
彼はもう私の息子ではない。社会のリソース、世界の駆動輪たる一個の大人だ。
息子は私のことなど覚えていないだろう。涙が流れそうになるのをぐっと堪える。私だって大人になった時、親の存在を忘れたのだから。
ただ一言、彼に言葉を向けてやった。
「さようなら、息子よ」
SF
公開:19/10/26 13:33
節目 通過儀礼

ひょろ( twitterが主。あとは「月の音色」の月の文学館コーナー )

短いものしか書けない系ものかき趣味人
江坂遊先生の「短い夜の出来事」(講談社文庫)に入っているハイパーショートショートに触発されて、短い小説を書いている。
原稿用紙5枚→3枚→半分(200字)→140字(twitter小説)と着々と縮み中w。
月の音色リスナー

目にも止まらぬ遅筆を見よ!

twitterアカウント:hyoro4779

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