『褪せた糸』

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「待って、そこのお嬢さん」
雑踏で声をかけてきたのは、身なりのいい青年だった。
「やっと、やっと見つけました。僕たちは運命の赤い糸で結ばれていたんです」
「えっ」
私は息を飲む。
「残念ながら、過去形ですが。ほら、これを見てください」
青年が見せた左手の薬指からは、確かに糸が垂れている。先は霞んで消えているが、青年が引くと私の左手薬指に引っ張られる感触がある。
私が指に目をやると、青年と同じように糸が結ばれていた。
「貴女に会うのが遅すぎた。年月が経って、糸はすっかり色褪せてしまっているんです」
言われたとおり糸はもう赤くない。うっすら赤みは残っているもののほとんど白だ。
「せっかく会えたのに、残念です」
落ち込む青年に私は言う。
「消えた赤。私はその赤が何処に行ったか知っているわ」
「本当ですか、教えてください!」
前のめりぎみに青年。
「まさか。私と貴方は赤の他人なのよ」
その他
公開:19/03/05 19:24

ひょろ( twitterが主。あとは「月の音色」の月の文学館コーナー )

短いものしか書けない系ものかき趣味人
江坂遊先生の「短い夜の出来事」(講談社文庫)に入っているハイパーショートショートに触発されて、短い小説を書いている。
原稿用紙5枚→3枚→半分(200字)→140字(twitter小説)と着々と縮み中w。
月の音色リスナー

目にも止まらぬ遅筆を見よ!

twitterアカウント:hyoro4779

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