前世鏡

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「何が見えますか」
磨かれた鏡面を覗いてみる。奥に見える像が人の形になる。
男の人……。
その球体の表面は光より速く反射する。光速を超えて、見ている人間の肉体にある過去の魂、つまり自分の前世を映す鏡になる。
結像したのは冴えないオッサンだった。ボサボサの髪。小太りでパッとしない服を着ている。ローマかエジプトかどっかその辺。
オッサンは見た目どおり凡庸な日々を過ごしていた。皿を割ったり犬に吠えられたり酒を飲んで転んだりしていた。これ、あたしの前世かぁ。
オッサンの日常は5分で飽きるかと思ったけど毎日見た。可愛いかもと思い始めたある日、オッサンは突然死んでしまった。川で溺れた子供を助けて自分が流されたんだ。
あたしは泣いた。散々泣いてオッサンは自分の前世としては悪くないかもと思った。



という女の子が見えた。


という老人が見えた。

という男が見えた。

という


「無数の光が」
SF
公開:19/02/24 02:00
更新:19/02/24 01:24
ショートショート美術館 マウリッツ・エッシャー 球面鏡の自画像 2007年1月

北澤奇実

慌てて書きましたが、七夕祭りに間に合いました!

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