『釣瓶火』

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「このホテルには怪談がございまして」
若いベルボーイはこちらが聞きもしないのに語りだした。
「エレベータを待っていますでしょう。上から一階ずつ下がってくる。扉が開くとそこにあるのはエレベータの箱ではなくエレベータシャフトに吊り下がった釣瓶火。火の中には女の顔が浮かんでいて”下へ参ります”と言うとすぅっと下へ降りていく。何事もなかったかのように扉はしまる、というものです」
私は吹き出しそうになった。それではヒトコマ漫画ではないか。
「この話には続きがありまして、見たお客様は必ずその晩お部屋で首を吊られるんです。落ちるもの同士、引き合うんでしょうね。落ち目になった人ほど目にしやすいとか」
こいつ、気づいたのだろうか。15年前まで書けば売れると持て囃されていたホラー小説家の私に。
「明日の朝は、騒がしくなりそうです」
ベルボーイは最高の接客スマイルを浮かべてそう言った。
ホラー
公開:19/04/23 15:20
妖怪 百鬼夜行シリーズ

ひょろ( twitterが主。あとは「月の音色」の月の文学館コーナー )

短いものしか書けない系ものかき趣味人
江坂遊先生の「短い夜の出来事」(講談社文庫)に入っているハイパーショートショートに触発されて、短い小説を書いている。
原稿用紙5枚→3枚→半分(200字)→140字(twitter小説)と着々と縮み中w。
月の音色リスナー

目にも止まらぬ遅筆を見よ!

twitterアカウント:hyoro4779

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