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橋の傍で車を停めると彼女は煙草に火を付けた。
「あたしんちは街で一軒だけのトンカツ屋だったの。家族は朝から晩までお金とトンカツの事を喋ってた。肉が幾ら上がったとか給食費とか野菜が高いとかね。それで一日中働いてた。あたしも学校から帰ると遊びに行かずに弟や妹の面倒を見た。でも別に嫌じゃなかった。当たり前だと思ってたのね。脂の乗ったお肉が、溶いた卵を潜って白いパン粉を付けられ一瞬で鍋の縁から油に滑り込むの。お父さんは太い菜箸を持ってジーっと油を目と耳で感じる。高温の油の中でお肉はゆっくりと美味しくなっていって、油から出る時には衣が茨みたいに尖ってサクサクで、噛むと中のお肉は肉汁と脂身の甘さと獣の香り。同じテーブルでみんな夢中になって食べたわ。お金の話をしながら。あの時まではね」
煙草が全て灰になると、彼女は橋の下のダム湖の底のコンクリートの下にあった家の庭の、土の中に埋まっている鍋の色を思った。
その他
公開:18/12/31 23:53
更新:19/01/09 10:10
好きな物を好きに書くシリーズ

北澤奇実

慌てて書きましたが、七夕祭りに間に合いました!

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