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さる高名な芸術家の一人娘の肖像画を、才あれど売れない貧乏画家が描く機会を得た。
歴代の一族の肖像が並ぶ回廊で、画家はさりさりと筆を動かす。
白黒写真から写した彼女の姿は、細い頤に大きな瞳、膝を揃えて長椅子に腰掛け、ドレスとお揃いのレースの手袋を握りしめている。
色彩は、画家の感じるままにと依頼されている。
普段なら決して手の出ない、宝石や貴金属を砕いた絵の具を使い、白金の髪にエメラルドの瞳を配し、衣服は淡いブルーにする。
肖像はもうほとんど完成しているが、美しい彼女の姿を、二度と目にする機会はないことが心引き裂かれる程に辛い。
彼は、恋をしていた。
思い悩んだ画家は、置きかけた筆をもう一度手に取り、自分の姿を、彼女の隣に描き足す。
夜も更けて。絵と全く同じ姿の娘が、心配げに画家の顔を覗き込んだ。
「あなた、そろそろお休みになりませんか?」
彼は、彼女の家族になっていた。
歴代の一族の肖像が並ぶ回廊で、画家はさりさりと筆を動かす。
白黒写真から写した彼女の姿は、細い頤に大きな瞳、膝を揃えて長椅子に腰掛け、ドレスとお揃いのレースの手袋を握りしめている。
色彩は、画家の感じるままにと依頼されている。
普段なら決して手の出ない、宝石や貴金属を砕いた絵の具を使い、白金の髪にエメラルドの瞳を配し、衣服は淡いブルーにする。
肖像はもうほとんど完成しているが、美しい彼女の姿を、二度と目にする機会はないことが心引き裂かれる程に辛い。
彼は、恋をしていた。
思い悩んだ画家は、置きかけた筆をもう一度手に取り、自分の姿を、彼女の隣に描き足す。
夜も更けて。絵と全く同じ姿の娘が、心配げに画家の顔を覗き込んだ。
「あなた、そろそろお休みになりませんか?」
彼は、彼女の家族になっていた。
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公開:18/12/01 09:37
幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。
プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
プチコン七夕に「烏合の橋」が選出。
名作絵画SSコンテストに「カウンセラー」が文春編集部賞選出。
働きたい会社 ショートショートコンテストに「オフィスカフェ」が選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。
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