なおちゃんのかぞく

2
7

 誰かが帰ると、玄関でカロンと音がする。
「なおちゃん、ただいまー!」
 低い声は、多分、お父さんだ。
 ポテトサラダを口いっぱいに頬張っていたなおちゃんの代わりに、お姉ちゃんが声を上げる。
「おかえりパパー、今ならお風呂空いてるよー」
「かーさん、腹減ったー!」
 カロンと、どたばた。大きな足音のお兄ちゃんが、キッチンカウンターに飛びつく。
「お兄ちゃん、今日は野球部? どろどろね」
 お母さんがご飯をよそう、ふわりといい匂いをなおちゃんは大きく吸い込む。
 なおちゃんの、ほんとの家族はどこにもいない。
 代わりに毎日、その日なおちゃん家に泊まれる誰かが、表札横に掛けられた、お父さん・お母さん・お兄さん・お姉さんの木製の札をカロンと引っ繰り返し、なおちゃんの家族になる。
「なおちゃん、おいしい?」
 お母さんの手が、頬のご飯粒をとって笑った。
 なおちゃんは、優しい家族みんなが大好きだ。
ファンタジー
公開:18/10/17 12:06

矢口慧( 関西 )

幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。

プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
プチコン七夕に「烏合の橋」が選出。
名作絵画SSコンテストに「カウンセラー」が文春編集部賞選出。
働きたい会社 ショートショートコンテストに「オフィスカフェ」が選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容