人により程度は異なりますが、依存が生じる可能性があります。

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「ここがきつにゃんしつね」
 転職初日。教育係の上羽さんに案内された施設に耳を疑った。
「え、完全禁煙では……?」
 前職場は、ニコチン切れのヘビースモーカーのキレっぷりに嫌気がさして辞めたというのに。
「高田くんも一服してこっか」
 うきうきと部屋に入った上羽さんの白い手が、扉の隙間から来い来いと呼ぶ。
 初日に悶着を起こしたくない。
 仕方がないと、息を止めて部屋の中に飛び込めば、社長、課長、経理のお局様のそれぞれが……猫の腹に顔を埋めていた。
「猫喫い知らない? 高田くん初心者かぁ、じゃぁ中原さんがいいかなぁ」
 上羽さんは、香箱を組んで目を閉じた雉猫の脇を掴み、にゅるんと持ち上げた。
「幸せの匂いがするよ」
 輝かんばかりの笑顔の勧めに、えいやと中原さんの腹に鼻先をつけ、息を吸う。
 確かに、これは幸せな。お日様に干した、布団の匂いだ。
 こうして、僕はまんまと喫にゃん者になった。
ファンタジー
公開:18/10/11 08:29
更新:18/10/17 14:25

矢口慧( 関西 )

幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。

プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
プチコン七夕に「烏合の橋」が選出。
名作絵画SSコンテストに「カウンセラー」が文春編集部賞選出。
働きたい会社 ショートショートコンテストに「オフィスカフェ」が選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。

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