サンショウウオの呟き・映画「京都メロウ~金魚のこいびと~」に寄せて

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 岩陰にぽつりと泡を吐く。
 下流で、人が、金魚に化した。いや逆か。金魚が人になり元に戻ったその音が、ぱしゃんとここまで響いてきた。
 同じく人の嘆きの音が、ぱたぱたと、ぽとぽとと。
 水族が、人に化生するのは珍しい。
 サンショウウオは、泡を吐く。
 水の箱から自由になれたなら、好きに泳げばいいだろう。
 下流から、ぱしゃりと答えが返る。
 帰る、帰る、帰りたい。
 人の多様な言葉を得たはずなのに、金魚の願いはただ一つ。
 生まれて。
 食って。
 食われて。
 死んで。
 生死の営み以上の何かを知るなど、人の世に触れるのも考えものだと、サンショウウオはぼやきの泡を吐く。
 ともあれ。我は神使である。
 鴨川の守りを得たものを、水神様の加護下で見捨てるなど職務怠慢である。
 涙の傍へと連なり続く水の一束を掴み、ここだここだとあぶくを流す。
 水面の天の赤色を、いつか揃って観られるように。
ファンタジー
公開:18/11/18 10:53

矢口慧( 関西 )

幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。

プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
プチコン七夕に「烏合の橋」が選出。
名作絵画SSコンテストに「カウンセラー」が文春編集部賞選出。
働きたい会社 ショートショートコンテストに「オフィスカフェ」が選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。

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