マジックメガネ

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 目に見えないハラスメントの横行に、悪意を可視化する為に開発された、その名も「マジックメガネ」を手に入れた。
 発言の意図を体温や声のトーン、表情その他諸々から判断し、真意を魔法のようなエフェクトで視覚化するという眼鏡だ。
「それぐらい自分で考えろ!」
 課長の怒声が、閃光となって炸裂する。
「こんなことも出来ないの?」
 お局様の冷たい声と眼差しに、新入社員が凍りつく。
 三名程の派遣社員が籠もった給湯室から、ざわざわと茨の蔓が伸びてくる。
 いつもなら何気なく聞き流している言に、こうも悪意が籠もっていようとは。
「顔色悪いぞお前」 
 同僚の気遣いは何故か黒い錐の形で胸を抉り、思わず椅子に座り込む。
「顔色、悪いですよ」
 向かいの席からの、同じ追撃に身を竦める。
「病院に行ってください」
 いつも通りに、淡々と事務的な彼女の声は、天使の梯子のような光の帯となって、僕を包み込んでいた。
SF
公開:18/10/21 10:22

矢口慧( 関西 )

幻想、怪談、時代物。その他諸々、わりと節操なしに書き散らす(自称)小説屋、やぐち・さとりです。

プチコン花に「花水」が選出。
プチコン海に「真珠」が選出。
プチコン七夕に「烏合の橋」が選出。
名作絵画SSコンテストに「カウンセラー」が文春編集部賞選出。
働きたい会社 ショートショートコンテストに「オフィスカフェ」が選出。
ショートショートは400文字きっちり縛り。

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