重なる瘡蓋

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 ──剥がれる。

 覆っていた瘡蓋が。積み重ね、膨らませたから。滲み、紅を滴らせて。

 薄闇に反射する清流。湿りを帯びた音を鳴らす。傍に着物の女。ただ、佇む。赤子を抱いて。乾いた風がうねる。結った髪を巻き上げ、ほどけた。

 月明かりが照らす赤子の顔。じっと見つめている。自分を凝視する、眼を。

 たもとが揺れる。手が額に伸びていた。指先に触れた瘤。掻くと、爪が僅かに染まる。

 眼尻が吊り上がる。抱く手が震えて。深く息を吐き、赤子を頭上に掲げた。瞳に映る、女の顔。

 空気を切り裂く声──鳴り止まない、音。

「重い」

 飛沫を上げ、清流と混ざる。遠ざかる音が。

 唇の両端がゆっくりと上がる。瘤から瘡蓋が剥がれた。ほどけた髪が額を隠す。

 振り返らず、家路を辿る。
 滴りは止まっていた。

 ────乾き、また蓋を重ねる。盛り上がり、膨らんで。
SF
公開:26/03/27 20:00
更新:26/03/27 12:36
境界

shige5964

哲学的な掌編を書いています。ブログに作品を置いてますので、ご興味があればこちらも是非。
https://baseman0406.blogspot.com/?m=1

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